『田園の詩』NO.90 「ナスビの大往生」(1998.11.24)


 仕事をしながらラジオを聞いていたら、俳句コーナーの入選作に『三度目の大根祈り
つつ蒔きぬ』というのがありました。

 作者は三重県の人で、選者は「台風の大雨で二度も流されてしまったのでしょう。今度
こそという祈るような気持ちが切実に伝わってくる」と評していました。

 実は、私達も三度目の大根の種を蒔いて間もない時だったので、「この気持ちよくわ
かるなあ」と女房と顔を見合わせました。

 当地では、今年はめずらしく台風の被害はなかったのですが、10月が記録的に暖か
かったことと雨が続いたことで、虫の発生が例年に比べて特に多く、芽が出ても薬を使わ
ないので、二度とも全滅してしまったのです。

 冬に大根がなくては困ります。いつもより約二ヶ月遅れで蒔いた種は、祈る気持ちが
やっと通じたのか、今はスクスク育ってくれています。

 気象異変は農作業に多大の影響を及ぼします。やっとのことで農家の稲刈りも終わり
ましたが、ぬかるんだ田圃でコンバインが必死に動き回っていました。結果的には当地は
例年並みの豊作のようです。全国的にはどうだったのでしょうか。

 さて、この天候の中で特筆すべきことといえば、我が≪百菜園≫では11月中旬になった
今もナスビが収穫できるということです。

 毎年、台風に荒らされて、早い時は9月に、遅い時でも10月中には終了ということに
なります。それが、今年は私の背丈程も伸びた70本の木がまだ元気に実を付けている
のです。


      
      3月に種を蒔いて育てたナスビは、6月末で、まだこんな状態です。
       雨が少ないので育ちがよくありません。後1ヶ月もすれば立派な実をつける
       ようにと祈りつつ、毎日水やりをしています。   
      (猫のクッチャンはもう少しで1歳です。立派に育ちました。(09.6.28写)


 この≪秋ナスビ≫が実に美味しいのです。俗な言い方をすれば、味がノリまくっている
という感じです。私が毎日のようにナスビ料理を注文するので、女房は呆れたような顔を
します。

 それでも、手を替え品を替え、山盛りのナスビ料理を食卓に並べてくれます。「あんた
ほどではない」というものの、やはり心から好きなようです。

 春に祈りつつ蒔いた種が立派に成長して多くの恵みを私どもに与えてくれました。ナスビ
の大往生を最後まで見守ってやりたいと思います。   (住職・筆工)

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